知の領域を学ぶ

 

時代は技術革新を求めている。橋本流“イノベーション基礎学”のススメ第4回

イノベーションは、一人の単純な「気づき」から生まれる。<5の3>

 
 

 
   

――アメリカを反面教師としつつ、目先のことに振り回されずにシッカリと足元を見て歩くことの重要性を説く3回目。前回までに考察した「GMが国策に溺れたゆえん」を踏まえたうえで、何らかの策はありえなかったのか、経営者の責任について考えていく。

   
 

■経営者の責務と戦略

 
   

 オバマ大統領の特権・リーダーシップに期待して、GMを始めとする国策企業の回復を一日も早く願いたいものである。ただ、国策に溺れた悲運は悲運として認めるにしても、GM経営陣の人為的責任についても言及しなければならない。そのうえで、独断と偏見で言わせてもらうなら、GMの経営陣には、刑事告発をされようとも、株主その他のステークホルダーから如何なる要求・追求をされようとも、辞任すれば全てが終了という安易な解決をしてほしくないというのが私見である。
 経営責任というのは、辞任すれば許されることではなく、経営者には、法的な責任の一方において、道義的責任があることを忘れてはならない。つまり、辞任することで責任を果すのではなく、経営を再建させることが責任を果すことになるという考え方が必要ではないかと思うわけである。そこで、経営が悪化の道を辿っている最中の段階で経営再建策を打ち出す手はなかったのかを考察・検証したい。そうでなければ、経営破綻した「真の理由」が出てくることはない。

 GMにおいては、高い雇用経費、年金・保険の負担増が財務バランスを崩していることは承知している。しかし、ここでは財務諸表を議論から外して、あくまでも経営戦略上における試験研究開発・商品開発の技術に軸足を置いた面を追求していきたい。
 さて、経営の再構築をする場合に、何が重要で何を切り捨てなければならないのか、慎重に熟慮しなければリストラクチュアリングは不可能である。すなわち、財務諸表における直間接の人件費、製造原価の見直し、遊休資産の見直し・売却、有利子負債の見直し、一般的なコストカットなどの経費削減だけでは、本当の意味で再構築が可能なのか、疑問が残るということだ。
 企業が、いつの時も抱えている最重要課題は、他社と差別化した優位性のある商品・サービスを市場に投入し続けることである。つまり、革新技術の生かされた商品や新サービスが創出できないと、クライスラーやGMのようになるという教訓である。
 企業の絶対使命は、利益を創出し続け、雇用を創出し続け、事業を存続させることにある。そのためには、コストカットや経費削減の対極にある「革新的技術を培うこと」と、それらを支える人材を育成しなければ、企業に未来はないと言っても過言ではない。

   
   

 では、人材の育成を怠ると、どうなるか?
 たとえば、消費者にとって魅力のない商品やサービスを市場に提供していても、誰も気づかなくなる。それが原因で価格競争に陥り、収益が悪化していても、商品開発やサービス開発にイノベーションを起こそうとしなくなる。俗に言えば「お日さん西西」であり、「親方日の丸」ということになる。
 そう考えると、実は、何よりも経営者の戒めと育成が先決である。
 一般に経営者には、今の経営環境を壊したくないという理由から長期にわたる試験研究開発を怠り、直近の利益が大切だとして、目先の決算の利益だけを金科玉条にする傾向がある。投資家に向かって、直近の利益を優先して「株価を上げる」ということである。つまり、大企業は投資家に対しておもね阿り、中小企業は、銀行に対して気を遣って阿る。このような目先の収益にこだわった経営のグランドデザインを描き変えなければ、日本企業、すなわち日本経済も、いずれはアメリカと同様に凋落する可能性がある。

 経営者が近視眼的な思考回路で、「任期の間、つつがなく・無事に過ぎればよい」と考える「事勿れ主義」が横行しているのが問題だ。
 しかし、である。経営者は身勝手なもので、何か売れるモノを「探せ、作れ」と檄だけは飛ばす。しかも上は、いくら檄を飛ばしても、下にそれだけの才量がないことを知っている。また、下の者も、檄は飛んでくるが、カタチだけの上のパフォーマンスだと分かっているから、誰一人として本気になることはない。本気を出して提案したとしても一蹴されるのは分かっているから、提案もしなければ諫言もしない。
 陰で愚痴を言って、時間だけが経過していくという構図が生まれる。気のついたときには「土手の崩れるのは蟻の一穴から」の状況に置かれているのだ。そうなってからでは遅きに失しているが、上も下も改めることは決してない。
 実は、こういう策を放棄した無責任さが原因となって多くの企業が経営破綻に追い込まれている。戦略的グランドデザインを完成させる未来への投資、つまり研究試験・商品開発へ経営資源を投入しないで、近視眼的コストカットを声高に叫んでも、「悪のスパイラル企業体質」が解決に至ることはない。