知の領域を学ぶ

 

時代は技術革新を求めている。橋本流“イノベーション基礎学”のススメ第7回

ITで生産性と品質を高める <其の1>

 
 

 
   

一章、マーケティングについて5回に分けてつづった二章に続いて、「イノベーション基礎学」と題してお送りするこの連載も第三章に入った。この章ではITと生産性の関係について3回に分けて考える。

   
 

■グローバル化におけるIT

 
   

 ITは便利で機能的だと誰もが認めるところである。たとえば、通信技術とコンピュータシステムを融合(コンバージェンス)させて、新たなビジネスモデルの創出も可能だ。
 アマゾンや楽天などのショップモールに代表されるが、流通販売の手段・方法が変わると、善きにつけ、悪しきにつけビジネスシーンにさまざまな影響が出る。
 たとえば、デパートの年間売上をコンビニと通販の年間売上合計が上回ったと日経新聞が報じた(2009年6月26日・朝刊)。モノを買う動機や買い方が多元的に、かつ多種・多様になってきた影響が現れた例である。個人がモノの価値を決定する際の意識の変化によって、wantsも変化し、新しいカタチを得て社会現象となるのである。

 ITの話に戻ろう。ITは、「時間・空間」を瞬時に移動する。その情報量はと言えば、人類史上の経験知で計り知ることのできるようなスケールではない。その驚くほどの情報のスピードと量をコントロールしているのは「通信」の技術の進化である。

 通信技術と情報処理技術のコンバージェンスは新しいビジネスモデルを創出し、それらを利・活用したビジネスモデルは、さらに進化していくだろう。そこで必要となる多元的・複合的情報を操作する手段がインターネットであり、それを実際上で運営しているのがサーバーと情報処理技術である。
 たとえば、ITの情報処理能力というのは、大気圏外の宇宙へ行って戻ってくる軌道計算の演算処理をしたり(スーパーコンピュータ)、宇宙の誕生の秘密に迫ったり、体にメスを入れないまま体の中の状態を解明したり、以前は扱えなかった現象を多面的かつ精緻に複合解析処理してくれる。
 その具体的な内容は情報処理技術のデジタル化への進歩であり、画像処理技術の高度化である。
 身近な例が携帯電話だ。手の平の中に入る大きさで、どれほど大量かつ高度な情報処理がなされているか・・・・・・。技術は日進月歩といわれるが、なかなかどうして、その程度のノロマなスピードではなく、秒速単位でITは進化している。
 そのことを考えると、「携帯電話」とは実は名ばかりで、その機能や利便性は会話機能がメインの電話の範疇にとうてい収まるものではない。画像処理にはじまって、お金の決済、エンターテイメントを聞いたり観たり、さらにはGPSによる所在特定など、考えようによっては通常のコンピュータ以上の役割を果している。
 このように理解していくと、IT技術は生活・暮らしのなかに溶け込んでおり、我々はそれによって高度で高品質の情報を、意識するともなく、疑問に感じることもないまま、昼夜分かたず活用している。携帯電話に至っては、それなくしては一日の生活・社会が成り立たないと言ってよい。

   
 

 
   

 私たちの身の周りの情報はグローバルに共有されている。その結果、インターナショナル=国際の「際」に示されていた垣根が取り払われることになる。そうなると、良きにつけ悪しきにつけ、情報が一人歩きをして社会の潮流を作っていくようになる。
 これは物理空間の垣根が取り外され、あらゆる時間がリアルタイムになる(因果律が意識されなくなる)ということである。それにより空間と時間の概念が明確に意識しにくくなり、その結果、たとえば各地域に土着していた慣習や秩序がなくなっていく。
 地域社会に秩序がなくなれば個人の生活に制約がなくなり、社会全体が少しずつ無責任体質に変化していく。すなわち、無秩序は無法と同義であり、これを放置すれば人類の生命に危険が及ぼされることになりかねない。
 そうさせないためには、新しいルール作りが地球規模的に=グローバルに必要である。生活も文化も宗教も哲学も、社会に適用される法律も違う異質の人間同士が、同じ次元・同じレベルで問題意識を共有し、共生しなければならない。

 ITというものができたがゆえに、「国際」ということの意味が一挙に地球規模的=グローバルという意味になり、その勢いが止まることはなく、さらに高度なITを必要とする。その際、国の言語や宗教・文化・法律を超越するITでなければグローバルな世界を成立させるには役不足であり、さらに高度なITが必要になる(クラウド・AI知能情報処理)。皮肉なイタチゴッコである。
 本来あるべきグローバル化の道とは、各国が主体性と主権を認めあって維持し、生活しやすいルールを構築していくことであり、各国が共同・協同して課題解決していくことである。ITはその方向性において進化・深化し、発展していくべきなのである。

 生命にとって、なくてはならないものが空気と水であるが、その空気と水にも垣根はない。情報も空気・水と同様に垣根を作ることはできなくなっており、今後もITがグローバルな世界を創造していくことは間違いない。